てもらひたいなあ。今、君んとこの大将、何してるの。
女   うちの大将、今、新聞を読んでるわ。時々、あたしの方を、こはい眼で見てるわ。
男乙  ぢや、これくらゐで止さう。もう寝るんだらう。
女   まあ、そんなとこね。
男乙  ゆつくりおやすみ。
女   御機嫌よう。

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女、受話器をかけ、そのまゝ、男甲の方に近づき、その後ろから無意味に新聞をのぞき込む。男乙は、しばらく受話器を耳に当てゝゐるが、思ひ切つて、その場を離れる。服を脱いでピジヤマと着替へる。
[#ここで字下げ終わり]

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女   三年前に結婚した学校のお友達なのよ。今日、丸山公園であたしたちを見かけたんですつて……。あんなひと、すつかり忘れてたわ。
男甲  なんていふ人だい。
女   え? あのね……。お嫁に行つた先は、なんとか云つたつけ……。友石だつたか知ら、……なんでもそんな名前よ。画家だわ。
男甲  風呂はどうする?
女   もつとあとからにするわ。
男甲  そんなこと云つて何時《いつ》まで起きてるつもりだい。
女   眠くなるまで……。

[#ここか
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