せう。
男乙 やつぱり顔を見ると駄目だね。ちよつとでもいゝから声が聞きたくなるんだ。
女 あたしもよ、それは……。あのまゝだつたら、あたし……。さうよ、学校を出てから、ずつとですもの。だけど、ぢや、いよいよ、行つておしまひになるのね。
男乙 さうするより、しようがないもの。無論、僕たちの取つた道は、今でも正しいと思つてるよ。君が結婚の相手にさういふ人を選んだことは、第一賢明でもあるし、僕がまた、それを許したことは、自分自身を知るものだと、少しは自惚れてるくらゐなんだ。――話中……えゝ、どうぞ――だからさ、今、かうやつて、君と話しをしてゐても、君の現在に対して、露ほども不快な感情はもつてやしないし、これから外国へ行くことなんか、それほど悲壮に考へなくたつていゝんだよ。たゞね……。
女 それでなくつちや嘘だわ。あなたらしくないわ。旦那様がそんな風なら、あなたもしつかりなさらなくつちや……。でも、めいめいが自由だつていふことは、却つていゝぢやないの。あたしんとこなんか、どちらかつて云へば、縛られすぎてるくらゐだわ。
男乙 なんだい、その話は……。もう少しこつちに関係のある話をし
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