シヨン・ホテルだ。さつきは失敬……。悪いと思つて黙つてたんだよ。そこにゐるの、大将……。
女 えゝ、ゐるわ。
男乙 僕の声聞えやしない?
女 さうね、あぶないわ。あなたも、旦那様と御一緒なの。まあ、ちつとも知らなかつたわ。お遊びにいらつしやいな。
男乙 どうだい、結果は……。あんまり新婚旅行らしくないぜ。
女 どうして……。
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男甲、隣室より現れ、再びソフアに腰をおろす。夕刊を読み続ける。時々、上眼使ひに女の方を見る。
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男乙 全く偶然なんだよ、今日、こんなところで、落ち合ふなんて……。僕、いよいよ出掛けることになつてね、明日の午後、神戸を発つんだよ。その前に、京都の友達に会つとかうと思つて、やつて来たのさ。
女 あたしたちが此処に泊つてること、よくおわかりになつたわね。
男乙 大概、見当がつくさ。電話なんかかけて悪かつたか知ら?
女 あんまりよくもないけど……。でも、うれしいわ。まだ赤ちやんはおできにならない? え? お嬢ちやんお一人……。ぢや、旦那様そつくりで
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