ふのよ。相手が年寄りだと思ふ通りになるわ。
男乙 ふうん、そんなもんかね。
女 あたし、少しは変つたでせう……。
男乙 君もすつかり面倒臭い女になつたよ。早くどつちかにきめたらいゝぢやないか。帰るなら帰る。ゐるならゐる……。
女 おや、あんたこそ、いやに威猛高ね。そんなに云ふなら、ゐたげるわよ。その代り、一つ条件を出すわよ。あの人が此処へ迎へに来たら、文句を云はずに、あたしを連れて行かせるのよ。
男乙 大将が此処へ来るのかい?
女 今、来るやうにするのよ。
男乙 なんだつてそんなことをするんだい?
女 あの人が何処まで寛大だか、それを試してみるのよ。それから……。
男乙 それから、僕が何処までお人好しだか、それを知りたいんだらう。真つ平だよ、そんなことは……。いゝから、もう、帰つてくれよ。
女 帰らない。あんたが、さつき、電話口でしたことは、どんなことだか知つてゝ? あたしの何処かに、まだ少し残つてゐた「人を信じる心」が、あれですつかり吹つ飛んでしまつたのよ。
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この時、Aの部屋の扉が明き、男甲が悄然とはひつて来る。部屋中を見廻し、
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