と考へた。電話、借りるわよ。(受話器を外す)もし、もし、都ホテルへ、どうぞ……。
男乙  そんなことして、いゝの?
女   もし、もし、ホテルですか。二百五番の部屋へ繋いで下さい。えゝ、ゐる筈です。さうですか。あ、もし、もし、あなた? あたしよ。あ、た、し……。まだ起きてらつしやるの? えゝもうぢき帰るわ。え? さういふわけぢやないけど、どうしてらつしやるかと思つて……。うゝん、やつぱり、心配なのよ……。うそばつかり……。淋しいのは、あたしよ。一人で車に乗るでせう、さうすると、つひ、うつかり、あなたがそばにいらつしやるつもりで、話しかけさうになるのよ。自分でも可笑しいくらゐよ。……えゝ……え? 帰つたら、いくらでも……。あら、いやだ、それはあたしの云ふことよ。ぢや、さよなら。また、あとでね。(キツスの音をさせ、受話器をかける)
男乙  それだけの用事か。真面目でないな。
女   これで真面目なのよ。
男乙  結婚して、今日で、幾日目だつけ?
女   十七日目……。式を挙げて十七日目だけど、まだほんとに結婚はしてないのよ。
男乙  そんなこと訊いてやしない。
女   訊かれなくつたつて云
前へ 次へ
全21ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング