やさうだ。
より江 今、どういふ花が咲いて居りますんですの。
貢 今はね、さうですね……シクラメン、ヘリオトロオプ、シネラリヤ……。
より江 へえ、シネラリヤが……。
牧子 そんなに感心なさる程ぢやありませんのよ。ほんの申訳に咲いてるんですの。
貢 そんなこと云ふなら、此の春来て御覧なさい。チュリップがどんなに咲いてるか、まるで和蘭へ行つたやうですよ。それからヒヤシンス、これは東京中で一番見事な花を咲かして見せます。
牧子 効能書はもう沢山……。それだけのことを、他のお客様におつしやれたら、えらいんだけれど……。
貢 云つてるよ、みんなに云つてるよ。
より江 あたくしも、花の作り方を教へて頂かうかしら……。
貢 あなた、さういふこと、お好きですか。かういふ世話をしてみたいとお思ひになりますか。
より江 ええ、食べてさへ行ければ……(笑ふ)
牧子 さあ、それが問題ですわ。
貢 (起ち上り)ぢや、お伴しませう。
より江 (これも釣り込まれるやうに起ち上り)どうぞ……。
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(両人出で去る、やがて、硝子越しに、二人の後姿が見える。牧子、一つ時、
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