仲のよかつたお友達……。
貢  やつぱり、独りでゐるの。
牧子  一昨年までは独りでゐるつていふ話でしたわ。
貢  一昨年まで……。ふむ……。ああ、何時か、何処かで会つたつていふ……。
牧子  ええ、庄司さん、……。
貢  書いたらいいぢやないか。東京にゐるの。
牧子  もとの処にゐますかどうですか……。
貢  学校へ聞き合せればわかるだらう。(間)こつちから手紙をやれば、よろこぶだらうと思ふやうな奴もゐないな、おれの仲間にや……。神谷ぐらゐのものかな……。あいつなんか、もう子供の二三人もこさへてるだらう。案外近所に住んでゐて、知らずにゐる奴があるかもしれないね。
牧子  より江さんなんか、それでしたわ。
貢  此処の前なんか通らない奴でさ。
牧子  さうですわ。

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長い沈黙。
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貢  あしたはと……。あいつを植ゑ替へてと……。
牧子  ……。
貢  今夜は、もう寝てもいいんだが、寝るには惜しい晩だな。――風が出て来たね。
牧子  ……。
貢  何か、かう、事件でも起りさうな気がするな。

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