靴下を脱ぎ、足の指をいぢる)
牧子  (電球を持つて来る。此の光景に聊か意外らしい一瞥を投じた後)電球、取換へませうか。
貢  ああ。
牧子  (電球を取りかへる。貢の側に近寄り)マメですか。
貢  ああ。
牧子  絆創膏か何か持つて来ませうか。
貢  それより、飯粒を持つて来てくれ、針と……。
牧子  そんなことなすつてよろしんですの。
貢  いいんだよ。
牧子  (飯粒と針とを取りに行つて来る)
貢  (針でマメを潰す。その上に飯粒を塗る。そして、紙片を張りつける)
牧子  (この間、ぼんやり、傍に立つてゐる)
貢  お前は、何か、することはないのか。
牧子  ……。
貢  自分の用事はないの。
牧子  いいえ、別に……。
貢  可笑しいね、今夜に限つて、どうして、おれも、お前も、なんにもすることがないんだらう。
牧子  今夜、兄さまのお留守の間に、しようと思つたことはありますのよ。
貢  なんだ、どんなこと……。
牧子  (椅子にかけ)手紙を書かうと思ひましたの。
貢  何処へ?
牧子  お友達のとこ。
貢  友達……? どんな友達……? 誰……?
牧子  より江さんと同じくらゐ
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