子  事件が起つてるぢやありませんか。
貢  こつちにもさ。――ぢつと待つてれば、何かやつて来さうな気がするんだ。お前、そんな気がしないかい。
牧子  しますわ。
貢  ね、するだらう。変なもんだね。こんなものかねえ。
牧子  ……。
貢  今夜、一晩、起きててみようか。ここに、かうしてて見ようか。何かしら、あるよ、たしかに……。
牧子  いやですよ、そんなことなすつちや……。
貢  兎に角、これは大したことに違ひないよ。四つの魂が、此の月の光の中で、ダンス・マカアブルを踊るかもしれないよ。おれは、それが見たいね。一寸でもいいから見たいね。
牧子  なんのことですの、それは……。
貢  静かに眠ればいいさ。(間)さもなければ、大きな声で歌がうたへるか。(間)どつちもむつかしさうだね。それぢや、どうしよう。(間)かうしてるよりしかたがないぢやないか――かうして、ぢつとしてゐるより……。(椅子の背に頭をもたせかける)
牧子  (静かに涙をふく)
[#ここで字下げ終わり]

[#地から5字上げ]――幕――



底本:「岸田國士全集2」岩波書店
   1990(平成2)年2月8日発行
底本の
前へ 次へ
全46ページ中45ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング