ふもの、だつて、交際《つきあひ》らしい交際《つきあひ》はしてませんわ。さういふ話があつてからでせう、急にこつちへ来なくなつてしまふなんて、随分現金ですわ、二人とも……。
貢  その間に、あの芝居といふやつがあつたからな。
牧子  より江さんていふ人の大胆なのには、あきれましたわ。どうでせう、あの大勢の前で……。
貢  さういふ女でなけれや、西原は動かせないんだね。
牧子  それは別の話ですけれど……。

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長い沈黙。
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貢  先生達は、結局、いい相手を見つけたね。革命家に労働婦人……。
牧子  ……。
貢  西原つていふ男は、中学時代から秀才だつたが、それや、ひねくれ者でね……。
牧子  より江さんも、学校時代には、それや先生を手古摺らせた人なんですのよ。やさしい問題なんか、あてでもしようもんなら、存じませんつて、つん[#「つん」に傍点]と横を向くんですの。
貢  西原にもさういふ処があつた。しかし、あいつは、熱情家でね。今でこそ、冷静な口の利き方をし習つてゐるが、昔は――その当時、熱血男児つ
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