り]
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貢の声 いらつしやい、より江さん。
より江 いま、すぐ……(さう云つて、まだ、動かない)
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長い間。
此の時、突然、西原の姿が、硝子戸に近く現れる。より江はそれを知らずにゐる。
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西原 (極めて落ちついた調子で、しかし、親しみを籠めて)お茶が冷めますよ。
より江 (ハツとして、その方を振り返る)
西原 (朗らかな微笑を以て之に応へる)
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第三場
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同じ応接間。
五月初めの夕刻、七時頃――
薄暗い燈火――窓掛が風にゆれてゐる。
牧子が現れる。勿論、前場の若々しさは去つて、もとの目立たない女になつてゐる。窓ぎわに椅子を持つて行つて、それに腰をかける。ぼんやり外を見てゐる。
呼鈴が鳴る。
彼女は、一寸首をかしげて、不思議だといふ眼つきをするが、急いで座を起つ。やがて「あら、どうなすつたの。もうすんだんですの。」といふ彼女の声――間――外出の服装をした貢が、帽子を被つたま
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