うか。
より江  温室の前の芝生がよう御座んすわね。あそこで、何か戴くと、味が違ひますわ。
牧子  そいぢや、さうしませう。兄さま、一寸、また、手伝つて下さいません。
貢  机はあれでいいだらう。
より江  ええ、ですけど、椅子が……。
西原  椅子なら、僕が持つて行きます。
より江  あたくしも持つて行きますわ。
牧子  それぢや、めいめい、御持参で……。(先へ出る)
より江  (その後から、続いて)何かお手伝ひしませうか。
牧子の声  いいえ。いいんですのよ。
貢  (より江が持つて行かうとする椅子を無理に取り上げ、両手に一つづつ持つて出る)
西原  (これも、両手に一つづつ持つて、その後に続く)行きますよ。
より江  (ひとり、窓から、温室の方を見てゐる。懐中鏡を出し、手早く顔を直す)

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長い間。
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牧子の声  より江さん、いらつしやい。
より江  はい(と答へたきり、ぢつと、眼を据ゑて、何か考へてゐる。寧ろ、何かを待つてゐる)

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長い間。
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