こいつは、閑を閑とも思はない女なんです。忙しい忙しいつて云ひながら、何もせずにゐる。
牧子  あら、うそばつかし……。
より江  そんなことありませんわね。あたくしなんか。どうかすると、なんにもすることはないと思ひながら、一方で、なにかしなくつちやならないと思ふでせう。その気持がこんがらかつて、結局、落ちつけないことがありますわ。
西原┐
  ├(同時に)それはありますね。
貢 ┘
牧子 ┐     ┌さういふ時だつて……。
   ├(同時に)┤
より江┘     └つまり、さういふことが……。
牧子 ┐
   ├(互に「どうぞ」といふ眼くばせ)
より江┘
西原  (引取つて)閑は出来ちや駄目だね。作るやうにしなくつちや……。
貢  それを云ふだけならやさしいがね。
西原  商売にもよるさ。
牧子  西原さんなんかは、おつしやるだけぢやないでせう。

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長い沈黙。
[#ここで字下げ終わり]

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貢  此の部屋はなんだか陰気だな。外が馬鹿に明るいだけに、家の中は、なんだかすすけてて惨めだ。
牧子  また外でお茶にしませ
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