なかなか午前中には片づきませんのね。またお邪魔させて頂きます。(起ち上り)途中で、牧子さんなんかにお遇ひするかも知れませんわね。
貢  まだ、いろいろお話ししたいこともあるんだけれど、御都合が悪るければ、また此のつぎにしませう。(これも起ち上り、より江を送つて出る。長い間)
より江の声  もう、よろしんですのよ。ほんとにもう……。あら、ここが、こんなに濡れてますわ。
貢の声  ははあ、バケツが漏るんだな。チヨツ、しやうがないな。

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長い間。
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貢  (やがて、二三通の郵便物をもつて現れる。その一つを開封する。読む。読みながら、椅子を引寄せ、腰をおろす。また別のを開いて読む。何れも、何んでもない手紙。さういふ時の精のなささうな表情。草花の鉢を一つ取り上げ、香を嗅ぎ、根ぎは、それから葉の裏を検め、不用な茎を摘み採りなどする。窓ぎはに立つて外を見る。外へ出る。しばらくして帰つて来る。また出て行く。長い間)

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(此の時、牧子と西原とがはひつて来る)
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