んですわ。
貢  そんなら、うちの中は、どうでもいいつていふわけですね。さうなんですよ。此の部屋だつて、あなたがたが見えるやうになるまで、額一つかけようとしないんですから……。さういふことは、女の気持でどうでもなるんですからね。さういふ、うちの中の飾り方なんていふものは……。
より江  さうですかしら……。
貢  僕は、自分で別段に、趣味のある人間だとは思つてゐませんが、相当、生活に趣味らしいものをつけてくれるやうな人間が、そばにゐてくれればいいと、いつでも思ふんです。さもなければ、活気です。こいつが欲しい。実に、だれきつてゐるんですから、僕達の生活は……。
より江  さうは見えませんわ。
貢  近頃でせう。それは……。あなたがたのお陰ですよ。殊に、あなたのお陰です。いいえ、ほんとです。僕は、今、かうして元気よく働いてゐるのも、あなたの為めに、なるべく美しい花を咲かせようといふ希望があるからですよ。あなたが見に来て下さらなくなつたら、僕の温室の花は、みんな色がさめてしまふでせう。
より江  (戯談に取つて)あら、そんな……。
貢  うそだと思ひますか。そんならもつとお話をしませう。僕た
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