いとね。
貢  さういふつもりで見てみろよ。
牧子  (たまり兼ねて)兄さま、西原さんさへおよろしかつたら、少しその辺を御一緒に散歩でもしてらしつたら……。
貢  食後、少しづつ、歩くことにしてるんだ。なに、今日はどうでもいいんだ。
西原  歩くなら歩かう。
貢  此の辺は、森がいいんだ。ああ、さうさう、家はまだ見つからないの。
西原  それがね、市中はやつぱり駄目だよ。と云ふのが、客が多くつてね。
貢  そんなら、此の辺へ来たらいいぢやないか。家はいくらも空いてるよ。そんなに広くなくつてもいいんだらう。あの家はどうかね、尼寺の隣の家さ。此の間まで札が出てたぜ。
牧子  あそこは道ばたでやかましいでせう。それより、あれはどうですかしら……。少し不便ですけれど、より江さんの御近所に、なんでも、画かきが建てた家が、建てたつきりになつてるんですつて……。借手があれば貸すらしいんですよ。
貢  アトリエづきだね。それやいいぢやないか。
西原  いいね。見せて貰へないかしら……。
牧子  より江さんのお母さんにお話すれば、わかりませう。一寸、行つて、伺つて来てみませうか。
西原  なんなら、散歩
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