よ。
牧子 あたくし、眉墨や頬紅なんか、もう使ひませんよ。
貢 使はなくつてもいいから、しまつとけ。
牧子 何を思ひ出して、こんなもの買つてらしつたの。
貢 いろんなことを思ひ出してさ。それはさうと、お前、西原は一人で帰つて来たよ。金髪美人を連れて来るだらうなんて云つてたけれど……。
牧子 まだ、どうだかわかるもんですか。後から追つかけて来ることだつてありますわ。
貢 疑ひ深い奴だなあ。しかし、あいつ、おれんとこなんかへ遊びに来るかねえ、久し振りでゆつくり話さうつて、今日、手紙を出しとかうと思ふんだが……。当分、神田の鳳仙閣つていふホテルにゐるらしい。一人ぢや、家を持つわけにも行くまいしね。奴さん、お前がかうしてるのを見たら、きつとびつくりするぜ。
牧子 (そんな話に興味はないといふやうに)ぢや、御飯の支度をして来ますわ。
貢 まだ早いよ。もう少し話をしようぢやないか。今日は、なんだか、いろんなことが新しく始まるやうな日だよ。今日まで、世間から離れて、たつた二人つきりで送つて来た暗い生活の中へ、思ひがけなく、同時に、二人まで、華やかな――さうだ――二人の華やかな友達が訪
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