体が正しく、強力に、少くとも国家の品位と国民の矜りとを基礎として築きあげられなければ、演劇だけがどうなるものでもなく、また、文化領域一般の水準が高まる時でなければ、演劇のみが他のものを後へに健全な発達を遂げるといふやうなことは望み得ないのである。
かういふ観点から、私は、日本の演劇が、従来の政治と如何なる関係に於て発展し、「新しい政治」が、演劇を如何なる目標へ導くべきかといふこと、更に、演劇そのものは、国民生活の精神的栄養として、日本の繁栄に如何に寄与すべきかといふことなどについて述べてみよう。
二 封建政治と演劇
演劇はあらゆる民族のそれぞれの生活形態から独自の表現を生みだしたと云へるが、その発生の起源は凡て宗教的行事と結びついたものとされてゐる。従つて、古代希臘の如き都市国家の政治は、民衆の集団生活に向つて多くの注意が払はれ、単に宗教がその生活の中に於て占めてゐる領域が大きいといふ理由からだけでなく、祭典的な催しは一種行政的企画の相貌を呈してゐるやうにみえる。かういふ国家にあつては、勢ひ、祭典の重要な部分としての演劇公演も、単に、当局の「取締」といふやうな形で政治
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