底野 それや無論、悪いた云はないさ。どうだい、家は相変らずかい。
こよ えゝ。あんたんとこは?(あたりを見廻し)この前より落ちついて来たわね。
底野 (これもその辺を見廻し)どの辺が? 板津や神谷はまだゐるかい。
こよ えゝ、神谷さんは、この春奥さんを貰ふんですつて。今、家を探してるわ。
底野 板津は、やつぱり下宿代を溜めてるかい。
こよ ふゝん、どうだか……。人のことなんかなんだつていゝから、あんた、どうかしなさいよ。あたし、いやだわ、こんなこと、しよつちゆう云ひに来るの。母さん、怒つてゝよ。それや嘘だけど、ほんとに少しづゝでもいゝからつて云つてるわよ。家から来るんでせう。
底野 二十円づゝ来るには来るよ。そのうちをどうかしろつていふのかい。虫がよすぎるぜ。
こよ あら、そつちこそだわ。二十円がさ、こんな風にしてゝ何にかゝるの。
底野 おい、失敬なこと云ふない。斬髪だつてチツプを含めれや一円はかゝるぜ。
こよ その頭、何時刈つたのさ。
底野 忘れるくらゐ度々刈つてらあ。時に片岡千恵蔵は見に行くかい。
こよ えゝ、ついこなひだ、あれ見たわ、なんだつけ……。
底野
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