に特効ある虫よけ香錠……。
底野 そいつは、質屋の方へ持つてつといてくれ。
男 最後に、卸値段の精選脱脂綿、薬局でお求めになるより四割方お徳用……。
底野 折角だが、女が一人もゐないんでね。
男 (荷物を片づけ)どうもお邪魔いたしました。またどうぞ、御用の節は……。
底野 寝たまゝ失敬。(さう云つて、また雑誌を読み続ける)
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やがて、また、今度は勝手口から、若い女の声で『御免下さい、御免なさいまし』
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底野 (元気よく起き上り)おはひんなさい。どなた?
女の声 あたしよ。
底野 あたしつて誰だい。あたしぢや多勢ゐてわからねえや。まあ、どのあたしでもいゝからおあがりよ。
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若い下町風の娘がはひつてくる。前の下宿の娘こよ(十九)である。
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こよ (軽く手をついて)こんちは……今日はお一人?
底野 一人だつていゝぢやないか。奇麗になつたね。
こよ 奇麗になつたつていゝぢやないの。
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