運を主義にまかす男
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)底野《そこの》

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底野(又はカマボコ)
飛田(又はトンビ)
こよ  以前の下宿の娘
口髭を生やした行商人
癈兵と称する押売
鶯を飼ふ老人
宇部家の小間使
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[#改ページ]

     一

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底野《そこの》、飛田《とびた》の両人が共同で借りてゐる郊外の小住宅。座敷と茶の間の外に玄関。
男ばかりの暮しが、家の中全体を殺風景にしてゐるが、それだけ伸々とした空気が、何処かに漂つてゐる。
底野(二十八)が、薄つぺらな座蒲団を二枚並べ、その上に寝転んで古雑誌かなにかを読んでゐる。これは、ある大学を中途で止め、郷里にはそれを黙つてゐて送金だけを受けてゐたが、学校を卒業する筈の年が容赦なく来てしまひ、もう一年落第したことにしようと思つたのに、親父の方が先手を打つて、今年限り学費は出さぬ、その代り就職口がみつかるまで、月々二十円づゝ生活費のたしを送る
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