から、あとはどうかしてそつちで都合をしろと宣告して来たのである。それでも、ぶらぶらしてゐて月々二十円貰へば、無理をして仕事の口を見つけ、朝から晩までからだを縛られてゐるよりはましだと考へ、こゝ二年間、世間一般の就職難を口実として、毎日、かうして寝転んでゐるのである。
相棒の飛田(二十七)とは学校の同窓で、しかも、以前、同じ下宿にゐたといふ関係から、自然、肝胆相照す間柄となり、飛田が卒業後或会社に傭はれる幸運を得た機会に、最も経済的にして且つ衛生的と称する郊外の自炊生活を始めたのであるが、飛田も亦、僅か数ヶ月にして、会社から爾後出社に及ばざる旨の通知に接し、百方運動を試みた甲斐もなく、之に代る椅子を贏ち得ずして今日に及んでゐる。しかしながら、彼飛田は底野と違ひ、生れつきの苦労性で、これまた情を訴へれば二人の兄と二人の姉から月にそれぞれ五円や三円づゝ小遣はせびれる身分でありながら、それだけでは決して満足せず、ひたすら好機会を外に求めて、毎日西東と駈け廻つてゐる。
さて、今日も、昨日の如く、底野は『果報は寝て待て』主義を、飛田は『犬も歩けば棒に当る』主義を実行してゐる。
玄関の戸があき、大き
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