ものをだよ、この手の中に握つたんだ。
底野  巫山戯《ふざけ》るない。出してみろ。
飛田  それが、もうないんだ。人が持つてつた。
底野  なんだい、一体、そのものつていふのは……。
飛田  鳥だ。
底野  三百円の鳥? 手の中へ握つた? 夢かい。
飛田  夢でも幻でもない。なるほど、あの声を聴いた時、これは曲者だと思つたよ。日本一の名鶯《めいあう》だ。
底野  メイオー? オーは……。
飛田  鶯だ。
底野  それが?
飛田  そこから、かうだ。それで、これだ。(外から飛び込んで来て、それを捕へた有様を手つきで示す)
底野  それで、これとは?(指を三本出してみせる)
飛田  これが、かう、かう、かう、かうさ。(老人が来て、見て、受け取つて、帰つたといふ恰好をする)
底野  なんだい、わからん。
飛田  飼主が、声を聞きつけて、受け取りに来たんだ。
底野  無条件で渡したのか?
飛田  条件はつまり、その、糞なんかたれないうちに持つてつて貰ふといふだけさ。
底野  だから貴様は、外へ出てろだ。
飛田  そいぢや、カマボコだつたら、どんな条件をつける。
底野  三百円の代物なら、一割乃
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