至二割は謝礼として要求するさ。
飛田  さういふものとは知らず、いきなり、さあさあお持ち帰りをと云つた場合は……?
底野  渡してからでも遅くない。
飛田  しかし、こつちからは、そんな態度を見せない方が奥床しいよ。堂々としてるよ。
底野  いくら言ふことが堂々としてゝも、その扮《な》りぢや人が信用しないよ。却つて、奇麗なことを云ふ方が、物欲しさうだよ。坊主にお経料を訊ねると、へゝお思召でといふやうなもんだ。
飛田  おれは、おれのやつたことを後悔してない。現に、なんにも云はないのに、何れお礼に伺ふと云つてた。
底野  そんなことが当てになるかい。温泉場で玉突の相手をした男だつて、東京へお帰りになつたら是非お遊びになんて云ふよ。

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その時、表で、若い女の声。――『御免遊ばせ。』
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底野  (飛び上るやうに)来たぞ。
飛田  (落ちついて)取次げ。
底野  (玄関に出る)どなた様で……。
女  (丁寧にお辞儀をして)わたくし、原の向うの宇部から使に参つたものでございますが。
底野  あ、あの、
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