。帰つてくれ。伊太利へでも何処へでも飛んでつてくれ。
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さう云ひつゝ、目笊を開けようとする途端、表に声がする。――『御免』
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飛田 (目笊をそのまゝにして、玄関へ出る)どうぞ。
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宗匠風の、又はそれを気取つた老人がはひつて来る。
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老人 突然、誠に失礼ですが、お宅では、鶯を飼つておいでになりますでせうか。
飛田 (驚いて)はあ、いゝえ、実は、今、そこにゐましたら、外から部屋ん中へ飛び込んで来たもんですから、つかまへて目笊に伏せといたんです。
老人 それでは、ちよつと、そいつを拝見さしていたゞけませんでせうか。実は、只今、餌をやつてをりますと、何に驚いたのか、いきなり籠から飛び出しまして、なんでもこちらの方角へ飛んで参つたんです。不断、非常に手前には馴れてをりますし、そんなことは決してなかつたんですが、どうしたものですか、今日に限つて……。
飛田 あゝ、さうですか。それは御心配でしたらう。
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