がはひつて来る。
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男 御免。
底野 どなた?
男 かういふものですが、義務として、ひとつなにか……。
底野 なにをひとつですか。
男 絆創膏、又は征露丸……。
底野 薬ですか。薬は、一向、用がないんでね、家では……。
男 ですから、国家のため犠牲を払つた同胞への慰問と考へられて……。
底野 何処にゐるんですか、その同胞つていふ人は……。
男 われわれがその一人です。
底野 (起き上り)あゝ、さうでしたか。これは失礼しました。(玄関へ出て、丁寧に膝をつき)あなたがなんですか。それはそれは……。(考へて)まあ、どうぞ、お上り下さい。少し散らかしてますけど……。
男 いや、こゝで結構です。
底野 いや、そこぢやいけません。絶対にいけません。苟《いやし》くも国家のために犠牲を払はれた同胞の一人に対して、そんな待遇はできません。さあ、どうか……。それとも、おからだに、どこか御不自由なところがおありですか。靴をお脱がせしませうか。
男 いや、それには及びません。ぢや、ちよつと、こゝへ掛けさして貰ひま
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