酔つたんだ。
底野 つまらんものまでに酔ふなよ。それで、そいつが、貴様の云ふ、果報は外を歩いて拾へか。
飛田 犬も歩けば棒に当るだ。
底野 犬の当る棒だから知れたもんだ。
飛田 貴様の話はなんだい。
底野 聴いてなかつたのか?
飛田 よく聴いてなかつた。誰が来たんだい。
底野 おこよさ、池中館《ちちうくわん》の娘さ。
飛田 なんだ、借金取か。
底野 借金は第二だ。
飛田 おこよが来たからどうだつて云ふんだい。それが、貴様の主義とどう関係がある。不良学生に取巻かれて、精神的処女性をとつくに失つてゐる娘から、何を得たといふんだ。貴様の果報つていふのはそんなことか。
底野 なにを。精神的処女性なるものを、貴様、云々する資格があるか。昔の友人が金持になり、支店長になり、それが、貴様の現在とどう関係がある。カクテル一杯で、頭が変になりやしまいな。公平に比べてみろ。たとへ誰のものでもいゝ。たとへ何を失つてゐてもいゝ。この殺風景な、この家賃も碌に払つてないやうな家の中で、一つ二つは隠してゐるとしても当年取つて十九歳と称せられる十人並以上の美少女とたゞ二人、火のない火鉢を挟んで相
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