たるは日本医学史に特筆すべき事実である。先づ服部けさ子女史の草津聖バルナバ医院に於ける、全生に於て西原蕾、嵐正の二女史の如き、大島に高橋竹代女史あり、我が愛生園には曩に大西富美子女史あり、本篇の著者小川正子女史あり。皆一身を此事業に擲つて悔なきの決心を有し、両親親戚の勧告に耳を藉さず、世人の批評に頓着なき男まさりの徒である。」
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それから、光田園長は女史を評してかういふ。
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「女子の臨床上にも一事を忽せにする事の出来ない特性は家庭訪問の上にも到る処発揮せられてゐる。(中略)此熱誠の根源は何れの処より来るのであるか、之れは畏れ多い事ではあるが、上、皇太后陛下の御軫念を奉戴し、私かに御使であると自任する強烈なる信念より迸り出づるからであらうと信ずる。」
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 さて、以上、著者並に光田園長の言葉によつて、小川正子さんといふ女性がどういふ環境に身を置き、どういふ仕事に生涯を委ねてゐた人かといふことがあらましわかると思ふ。
 そこで、私は、この書物によつて救癩事業の一般を知り、これを現代の社会問題として考察し、この事業に終生を献
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