一対の美果
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

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/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)予ね/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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       一

 近頃読んだいろいろな文章のなかで、私が特にこゝでその読後感を述べたいと思ふのは、それが今の私にとつて可なり重要な問題を含んでをり、それのいづれからも非常に珍しい感動をうけ、しかも、それらが揃ひも揃つて、所謂「非職業作家」の手になつたところの、甚だ示唆に富んでゐる二つの「記録」である。
 先づ最初にあげたいのは、女医小川正子さんの手記「小島の春」である。もう大ぶん前のことだが、何気なく家人がそれを読むのを聴いてゐるうちに、私は、これはえらい本が出たと思ひ、感興の深まるにつれて、この本は是非日本の多くの人に読ませたいといふ気になつた。私は暇を得て、それをもう一度読みなほしてみた。ところが、あるところまで読みすゝんで行くと、私は文字どほり泣かれてしまひ、それも、ひとところふたところといふのでは
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