はならぬのである。語調語勢の波動が、緩急抑揚の技術を滞りなく生かして行かねばならぬ。
さて、かういふラヂオ文学の特殊技巧以外に、私は、内容的な精神美と作家的な「表現力」を要求する。勿論、放送用としてある程度の普遍性は望ましく、さうかと云つて、大衆向きを標榜する卑俗な趣味は断乎として排斥するものである。
人情を取扱ふのはよろしいが、安価なセンチメンタリズムでは困るし、社会諷刺結構であるが、ヒステリツクな独りよがりは相手になれぬ。取材の時代的範囲は自由であるが、感覚と思想には何処か新鮮なところがあつてほしい。
何れにせよ、聴取者の大部を「退屈させない」なにものかを有し、その上、彼等の(即ちわれわれの)健康な魂に呼びかける若干の文化的意義を要求したい。
私の手許に送られた作品の中で、以上の要件を悉く具備したものは、残念ながら一つもなかつたが、参考のために、私の採点標準に従つて、左に入選作品を抜き、簡単な批評を加へれば、――
爆音
思想やゝ単純なるも、浅薄ならず、素朴なる感情と明朗なる技巧、共に愛すべく掬すべし。この一篇を得たることで、選者はやゝ満足せり。
春と夫婦
万人向きの
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