主題、平俗なるも野卑に陥らず、描写とリズムに破綻少きを取る。

 調子に若干の古臭さを感ずるも、形式的に一つの試みを示し、その意図を押し切りたるところ興味浅からず。
不良
 相当の筆力を示し、心理劇として見るべきところあり。但し、ラヂオ・ドラマとしてやゝ平板の嫌ひあり。
家族会議
 機智的な会話に十分才能を認め得るも、後半は著しく弛緩し、修正を加ふにあらざれば退屈至極ならん。
母に生きる
 相当作家的習熟を感ぜしめる点に於て、「不良」と共に注目すべき作品なるも、対話が心理的に過ぎ、ラヂオ的イメージ稀薄なり。
みんなの青空
 詩味必ずしも豊かとは云ひ難きも、屋上の風物をつなぎ合せ、都会生活の浮動的断面を見せたところ、気の利きたる思ひつきなり。
新家庭聴診
 賑やかなれど退屈な生活描写が、意味もなく断続して印象の統一を妨げ、早く云へば作品以前のノートなり。患者の耳にいきなり聴診器を差し込む手はなし。但し、ところどころ、会話そのものゝ生動、なかなかに捨て難し。(日本放送協会発行「放送」昭和十年六月)



底本:「岸田國士全集22」岩波書店
   1990(平成2)年10月8日発行
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