つたなんて、どうしても思へないわ。どつか、そのへんに、戸棚の後ろかなんかに隠れてさうな気がするわ。だつて、さういふこともあつたのよ。そんな巫山戯方《ふざけかた》をする人だつたわ。何時《いつ》かも、あたしが、奥へ誂へ物を頼みに行つてる間に、こつそり寝台の下へ潜つて、しばらくあたしに気を揉ましたわ。だつて、それが三十分からよ。出て来るところを、あたし、いやつていふほど、スリッパでぶつてやつたわ。さう云へば、あたしが乱暴すんの、とてもよろこぶの。あんなの、変態かしら……。
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両手で顔をおほひ
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――なんでもいゝわ。もう一度、たつた一度でいゝから会ひたい……。もう、これつきり会へないつていふ、ほんとの決心をしたところで、しみじみ会つてみたい……。今までは、どうしたつて、それほどの気持にはなれなかつたわ。はつきりさうとわからないうちは、まだまだ先があるやうな、うつかり構へてるところがあつたわ。それが口惜《くや》しいの、あたし……。
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今度は、片手で頬杖をして
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