てもいゝわ……。
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椅子に腰をおろす。そして、すぐにまた起ち上る。
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――二十五の年、つまり去年まで、自由な身でゐて、男つていふものを、振り向いても見なかつたわ。憎らしいとか、怖《こは》いとかぢやないの。なんか、かう、すかすかした、興醒めな気持しか起らないのね。どういふんでせう、それが、かうなつたんだわ……。いゝえ、それも、ほかの、どんな男にでもつていふんぢやないわ。あの人だけよ。あの人だけによ……。会はずにゐれば、切《せつ》ないし、会へば、わけなく、ぽうツとしてしまふの。
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両手で頬をおさへ、甘えるやうに科《しな》を作る。
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――あら、どつかで笑つてるわ。まさか、あたしのことぢやないだらうな。
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寝台の上へどかりと腰をおろし、スプリングでからだを弾《はず》ませながら
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――かうしてると、あの人が国へ帰
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