わり]

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――あの人が若し、あたしをフランスへ連れてくつて云つたら、あたし、なんて返事をしたらう……? それや、いやだなんて云はないわ。でも、これまで、一度もそんなこと考へてみなかつたわ。それや、あたしには、ちやんと、あの人つてものがわかつてたんだわ。どうせ、そんな真面目《まじめ》な気持ぢやないにきまつてるわ。殊に、はじめは、向うも気紛れ、こつちも気紛れだわ。たゞ、あたしを、玩具《おもちや》にしたつていふのと、少し違ふところがある。それだけ、あたしも、本気になれたんだわ。釣るとか、瞞《だま》すとか、そんな腹は、どつちにもない。恩も義理もない代り、秘密も見栄《みえ》もない。お互ひに縛られず、お互ひに、飽きもしなかつたんだわ……。だから、あの人が、日本にゐさへすれば、いくらでも長く続いた筈よ、何時《いつ》までも、どんなことがあつても……。

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急に、からだを捻ぢ向け
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――あツ……。あの人には、奥さんがあつたのかしら……。それも、訊《き》かう訊かうと思
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