んでをりました、はい。」
 お前は知つてゐるな、おれがあの連中と茶を飲んだことを。
 庭の芝生で子供らと遊ぶ。
 お前たちに、かういふことができるか。をぢさんはできる。いゝか、見ておいで。
 逆立をして見せる。

 わたしは山が好きだらうか。疲れずに登れる山なら好きだ。
 わたしは水が好きだらうか。音を立てない水なら好きだ。
 何よりもわたしは、深い森が好きだ――虫さへゐなければ。


カレルセエ

 葵色《モオヴ》の山壁、紺青の湖、それを縁どる黒猫の背に似た樅《もみ》の林。
 行かう、行かう、おれはあんまり見すぼらしい。


メンデルパツス

 運転手、気をつけてくれ、おれの生命《いのち》はお前の掌中にあるんだ。
 なに、おれだけ殺すことは出来ないと云ふのか。
 静かに、静かに……お前と死んでなんとせうぞ。


コルチナ

 雪が降るまで咲きつゞけると云ふ牧場の泊夫藍《さふらん》、お前は笑つてゐるのか、それとも、夢を見てゐるのか。
 白楊樹《ぽぷら》が伸びをしてゐる。
 エリザ、珈琲をもつと熱くして来てくれ。

 ――いよいよお別れですね……奥さん。一度あなたのお眼を拝見……そのヴェ
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