チロルの旅
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)街《まち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)「「|我が息ひの家《ヴイラ・モン・ルポオ》」

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)やもめ[#「やもめ」に傍点]
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ヴェロナ

 なるほど、………………………………。
 これがロメオとジュリエットの墓だな。大理石の棺には蓋がない。名刺がいつぱい投げ込んである。
 シェイクスピイヤの胸像が黒い蔦の葉の間からのぞいてゐる。
 そこで、絵はがきを売つてゐる。


トレント

 こんどはダンテの立像だ。見てゐると頸が痛くなる。

 オースタリイ軍に殺されたイタリイの薬剤師を憂国の志士と呼んでゐる。

 ――暑い。何といふ乾ききつた街《まち》だ。


ボルツァノ

 昨日まではボオツン。――南部チロルの古都。
 ホテルの食堂が暗い。


アルト・ボルツァノ

 高原の涼気を、まづ、胸いつぱいに吸ひ込む。
 ××××夫人の山荘を訪れる。――だしぬけではおわかりになりますまい。この婦人は、東京で生れ、ロンドンで育ち、ウィー
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