てやしないこと、どうせ。
 ――むろん。
 ――あ、お腹が痛い。(急に)は、手袋でございますか、お安いところを、ビヤン・ムツスイウ!


ギャルソニエールにて

 ――よく来て下さいましたね。
 ――来たわ、また棄てられる気で……。
 ――冤して下さい。
 ――そんなこと云ひつこなし。あなた、ちつとも変らないのね。
 ――心だけは入れかへました。
 ――このつぎ入れかへるまで、可愛がつて頂戴。
 ――いやだなあ。
 ――また「いやだなあ」が始まつたわね。(間、いきなり立ち上り)何か飲まして……。


雨の夜

 ――ねえ、アンリイ、一寸こゝへおいで。
 ――また「お祖母さんが若い時には……」だらう。
 ――なるほど、お前たち若いものに、若い時分の話でもあるまい。……といつて、今のお祖母さんに、どんな話ができやう。


××にて

 ――あたしの宝……あたしの愛……あたしのキヤベツ……あたしの好きな好きな、いとしいいとしい人……あたしの狼……あら、いや、そんないたづらをしちや……豚!


之を要するに

 ――(夫の靴下を編みながら)それで、あなた方は、どうしようつておつしやるの。
 ―
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