ふらんすの女
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)上手《ぜうず》
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マダム用応接間にて

 ――あなた、旦那さんのどういふところに、一番感心してゐらつしやる?
 ――上手《ぜうず》に嘘をつくところ。
 ――…………?
 ――あの人の嘘は、それや嘘らしくないの。だから、騙《だま》されてゐながら腹は立たないの。


或る日の朝

 ――出て行けつたら出て行け。
 ――出て行きますとも……後悔するんぢやありませんよ。
 ――後悔なんかするもんか。
 ――もう後悔してるくせに……。


海岸にて

 ――ねえ、あなた、あたしを愛してる?
 ――うむ、愛してるよ。
 ――たくさん?
 ――うむ、たくさん。
 ――きつと?
 ――うむ、きつと。
 ――こんだ、あたしに訊《き》いて頂戴。
 ――なんて?
 ――あなたを愛してるかどうか。
 ――ぢや、お前、僕を愛してるかい?
 ――えゝ、愛してるわ。
 ――どれくらゐ?
 ――これくらゐ…………(接吻しようとする)
 ――まあ、待つてくれ。言葉でさ。
 ――言葉で…………ぢや、死ぬほど。
 ――…………?

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