――…………!
 ――どつちが?


波止場にて

 ――ぢや、六ヶ月ね、きつと?
 ――大丈夫だよ。それより長くなるやうだつたら呼び寄せるから…………役所の方にもその話はしてあるんだ。
 ――六ヶ月でも永いわ。(ハンケチを眼にあてながら)それ以上待たせたら、どんなことになるか、あたし保証しないことよ。
 ――(心の中にて)神よ、われを護り給へ。


劇場の廊下にて

 ――細君は?
 ――細君は旅行中だ。
 ――…………?
 ――例のと一緒にさ。
 ――…………?
 ――吾輩かい…………? 君、吾輩のボツクスを見なかつたかい?


サロンにて

 ――君の近作を読んだよ。大したもんだね。
 ――さうか。奥さんはいかゞです。読んでくださいましたか。
 ――えゝ、拝見しましたわ。あなたの詩は、あなたほど面白くないのね。
 ――ひどいなあ。
 ――あたしたちにはよ。


地下電車《メトロ》の中にて

 ――さ、どいて下さい。それは車掌専用の腰掛けです。
 ――君が立つてゐる間だけ借りたんだよ(しぶしぶ立ち上る)
 ――一寸の間、ね、いゝでせう(腰かける)
 ――いけません、それや…………
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