。
――(腰かけたまゝ)今日はね、ムウドンの親戚へ用があつて行つたんだけれど、行きも帰りも立ちどほし……くたびれちやつた。
――わたしも立ちつゞけです。
――ほんとにね、車掌さんも楽な商売ぢやないわね。
――好きでやつてるんぢやありませんや。
――あたしだつて好きでメトロなんかへ乗るもんですか。
――(もぢもぢしながら)どこまでおいでゞす。
――終点までよ。(間)あんたは、何時だつて腰掛けられるぢやないの。
電車の停留場にて
――また満員らしいわ。
――こら、びしよびしよ、あたしの帽子、あなたのも……。
――足が凍えさうね、あたし、泣きたい。
――アルマ、アルマ……お降りの方はありませんか。はい、お早く……二等は満員……一等お二人さんだけ……。
――(片足を踏段にかけたまゝ)どうする?
――もう一台待ちませう。
公園のベンチにて
――あなた、あたしの許嫁をどう思つて?
――どうとは?
――かう、見たとこ……。
――さうね、しつかりした方ね。
――それだけ?
――でも、優しさうだわ……妬くわよ。
――だあれ、あの人?
――…………!
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