――(腰かけたまゝ)今日はね、ムウドンの親戚へ用があつて行つたんだけれど、行きも帰りも立ちどほし……くたびれちやつた。
 ――わたしも立ちつゞけです。
 ――ほんとにね、車掌さんも楽な商売ぢやないわね。
 ――好きでやつてるんぢやありませんや。
 ――あたしだつて好きでメトロなんかへ乗るもんですか。
 ――(もぢもぢしながら)どこまでおいでゞす。
 ――終点までよ。(間)あんたは、何時だつて腰掛けられるぢやないの。


電車の停留場にて

 ――また満員らしいわ。
 ――こら、びしよびしよ、あたしの帽子、あなたのも……。
 ――足が凍えさうね、あたし、泣きたい。
 ――アルマ、アルマ……お降りの方はありませんか。はい、お早く……二等は満員……一等お二人さんだけ……。
 ――(片足を踏段にかけたまゝ)どうする?
 ――もう一台待ちませう。


公園のベンチにて

 ――あなた、あたしの許嫁をどう思つて?
 ――どうとは?
 ――かう、見たとこ……。
 ――さうね、しつかりした方ね。
 ――それだけ?
 ――でも、優しさうだわ……妬くわよ。
 ――だあれ、あの人?
 ――…………!

前へ 次へ
全6ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング