在、そこここで悪戦苦闘を続けてゐる新劇団体の、何れにも僕は見切りをつけたといふわけではない。大した希望ももてないかはり、あのままでは惜しいといふ気持も可なりあるにはある。殊に、その中に、一人二人、心がけ次第では可なり伸びられさうな才能をもつた俳優がゐる場合には、人ごとながら、秘かにやきもきしてゐる次第だ。
 それらの劇団から、時々切符を送つて貰ふ度毎に、さういふ俳優がどんなことをしてゐるか、ちよつと見に行きたいやうな気がすることもある。が、舞台全体としては観ない先から見当もつくし、おほかたは、それらの人々の不心得、不始末を見せられる結果になるので、風邪など引きかけてゐるのを幸ひ、まあやめとけといふことになる。あとで、人から面白かつたといふ噂を聞くと、それでも、いくらか残念な顔はするが、内心、どうかしらと疑ふのが常である。
 方針さへよく、稽古も十分で(少くとも一と月はやり)、出し物にも興味がもてれば、俳優は素人でも、僕は出かけて行くつもりだ。観たらきつと批評もしたくなるであらう。
 伊賀山精三君の「唯ひとりの人」をやつた劇団は、一度観ておくつもりだつたが、伊賀山君が是非来いと云はないか
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