ら、丁度その晩、この原稿を書いた次第だ。伊賀山君が僕に遠慮をする筈はないからだ。
美術座は、本庄桂介君が、僕のところへ見えて、何か新聞へ宣伝文を書けと云ふから、稽古を観た上でといふ約束をし、東洋ホテルの広間で、贅沢な稽古を拝見した。
その感想は、最近、何かへ書くつもりだが、お世辞を云はぬことにする。
往年、築地小劇場の旗揚以来、僕は、新劇団に対して、云ひたいことを云つてゐる。場合によつて提灯持ちの役も勤めるが、好い加減な法螺を吹いたところでなんにもならぬ。美術座には本庄君以外、旧知の諸君も大分ゐたが、会へば誰でも懐しい。まだ芝居をやつてゐるのかと思ふだけで、さう悪口も云へなくなるが、いつの間にか達者な「役者」になつてゐる人もゐて、僕は少々照れた。それにしても、稽古中なかなか味をやるので、うつかり最後まで座を起てずにしまつたことを告白する。(一九三四・三)
底本:「岸田國士全集22」岩波書店
1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「劇作 第三巻第三号」
1934(昭和9)年3月1日
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