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彼女は、それと見て、すぐに鑵の中から疳癪玉を取り出し、彼に渡す。彼、それを叩きつける。爆音。
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彼  君は、あいつに好意を有《も》つてやしまいね。
彼女  好意つて……? あんたのお友達としてだけよ。
彼  それにしてもさ。
彼女  どつちかつていへば、虫が好かないわ。
彼  どういふところが……。
彼女  さういふことをいふところや、あたしを見る時、変な眼附をするところや……。
彼  どんな眼附……?
彼女  口ではいへないやうな眼附だわ。
彼  よし。(険しい顔附になる、彼女は、また、疳癪玉を渡さうとするがその手を押しのける)それぢや、僕のところへ来る奴の中で、誰が一番、君は好きだ? 好きつていふとわるいが、誰が一番感じが好い?
彼女  感じの好いのなんかゐない。
彼  小森はどうだい?
彼女  あんなのいや。
彼  なぜ?
彼女  つまんないところで、熱情家ぶる男、あたし嫌ひさ。
彼  そんなら、阿部は?
彼女  あれも、なつちやゐない。
彼  どうして?
彼女  誰かのいつたことを
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