の中から疳癪玉をつかみ出し、続けざまに、三つ、それを床の上に叩きつける。爆音、爆音、爆音。彼は、それから、椅子に腰をおろす。
彼女は、彼の肩に手をかけ、そつと、耳もとで囁く。そして笑ふ。
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彼  そんなことをさせるから、あいつ、つけ上つて、用もないのに、しよつちゆうやつて来るんだ。
彼女  だつてそれでなけれや、今晩はトマトだけのはずよ。
彼  こつちで利用したつもりでゐると、そのうちにこつちが利用されるんだ。ビフテキの返報に、何を要求されるかわからんぞ。
彼女  それほど図々しい人でもないわ。
彼  それがいけないんだよ。君には、どこか、危なつかしいところがある。どの辺で踏み止るかつていふ見当が、僕にはつかないんだ。
彼女  でも、はじめ、あたしが買物に出るから、留守番をしてゐて貰はうと思つたら、その間、ベツドを借りてもいゝかつて訊くのよ。
彼  それで……?
彼女  そんなこと、あたしいやだから、断つたわ。
彼  なんて?
彼女  馬鹿いふのもいゝ加減になさいつて……。
彼  (いまいましさうに舌打ちをする)

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