くんぢやないの。
多田  (椅子に腰かけテーブルの上の新聞を取り上げ)今日は何処へ行つたの?
彼女  その、印《しるし》のつけてあるとこでせう。
多田  なるほど、これやよささうだ。志操堅固なる青年紳士を求むか。
彼女  なに笑つてるの?
多田  僕にも一つ、心当りがあるんだけれど、まあ、こつちがうまく行かなかつた時のことにしよう。
彼女  あんたの心当りつていふのは、新聞広告より、もつと当てにならないわ。
多田  こなひだのは、あれや、失敗だ。独身つていふ条件があつたのを、つい、先生にいつとくのを忘れたんだ。
彼女  嘘を吐《つ》けば、後で困るぢやないの。第一、人を使ふのに独身を条件にするなんて、間違つてるわ。
多田  家を貸すのに、子供がない夫婦つて注文を出すやうなもんでね。つまり気休めさ。
彼女  お茶、飲む? 飲まない?
多田  飲む。
彼女  冷たい紅茶よ。お砂糖いる? いらない?
多田  いるさ。
彼女  そんなもの、あつたか知ら……。

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彼女は炊事場から茶の道具をもつて出て来る。注ぐ。
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