い。(化粧テーブルの上を頤で指す)
隣の女  あら、もう一度分きりないわ。

[#ここから5字下げ]
隣の女が、ヘチマコロンの瓶をもつて出て行くと、彼女は、炊事場にはひる。やがて、両手にナイフを持ち、「守るも攻むるも」の節に合せて、刃を砥ぎながら現れる、何か探し物をするらしく、部屋中を一と廻りするが、そのまゝ、また炊事場にはひる。ドアをノツクする音。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
彼女の声  どなた?
外の声  僕……。
彼女の声  僕ぢやわからない。
外の声  僕ですよ。わからないかなあ。
彼女の声  多田さんね。なんべん来たつておんなじよ。まだ帰つてやしないわ。

[#ここから5字下げ]
ドアが開く。多田現れる。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
多田  奴さん、用がある時に限つてゐないんだから、始末にいけないなあ。
彼女  (現れ)ゐさうもない時に来るからわるいのよ。朝出て晩帰つて来るぐらゐのことはわかつてるでせう。
多田  不断はさうさ。だけど今先生仕事がないんだもの。
彼女  ないから探しに行
前へ 次へ
全18ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング