いてなんぞ貰ひたくない。貧乏をするのも辛いが、君に食はして貰ふのはなほ辛い。
彼女 誰も、あんたを食べさせるつていやしないわ。めいめいが、自分で食べるだけだわ。それもいやなら、あたし、あんたに食べさせて貰つた上、自分で稼いだお金は自分で贅沢をするわ。
彼 その贅沢も、おれがさせてやるんでなけれやいやだ。
彼女 あたしも、その方が結構だわ。なによ、そんな眩しさうな顔して。そこは夕日があたるからよ。もつと、こつちをお向きなさいよ。(彼女は彼の両肩をもつて自分の方へ捻ぢ向ける)
彼 おれには友達なんぞ一人もない。あれや、みんな、君の友達だ。
彼女 おや、また、別の話になつたの?
彼 あいつらは、君にだけ親切が見せたいんだ。
彼女 (疳癪玉を渡す)はい。
彼 絶交だ。(叩きつける。爆音)
彼女 (それに応じるやうに、叩きつける)むろんよ(爆音)
彼 酔ひどれの膝に、しなだれかゝる気か、君は……。そんな、そんなことがさせられるか。(叩きつける。爆音)
彼女 あゝ、さういふ意味なの? 衣裳を作つてやるつてさういふ意味なの? そんなこと、誰がするもんか!(叩きつける。爆音)
彼
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