もうひと息だ、我慢してくれ。おれの愛し方には欠点もあるだらう。君が、その欠点に堪へられなくなつた時は、おれは、もう、君にとつて用のない人間だ。
彼女  (彼の後から抱きつく様にして)大丈夫よ。大丈夫よ。
彼  大丈夫か? ほんとに大丈夫だね。

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この時、隣の女が、そつとドアを開ける。
[#ここで字下げ終わり]

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隣の女  あら、御免なさい。これ、みんな使つちやつたけど、とにかくお返しするわ。
彼女  (ヘチマコロンの空瓶を受け取り、ドアを閉める)
彼  あの女、いやにおめかしをしてるぢやないか。
彼女  そんなの、見ないだつていゝことよ。
彼  見るわけぢやないさ。たゞ、君の前では、もつと遠慮をするといゝんだ。
彼女  そんな下らない心配はおよしなさい。あたし、かうするから……。(疳癪玉を叩きつける。爆音)
彼  ほんとだ。おれは、どうして、かうケチな量見しかもてないんだらう。われながら腹が立つよ。どら、貸せ。もうないのか。なんだ、空つぽぢやないか。えゝツ、糞《くそ》、どうして、もうないんだ……。
彼女  もつと
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