彼女は彼の向ひに腰をおろし、焼きたてのビフテキを、めいめいの皿につけ、飯をスープ皿によそふ。
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彼女  ぢや、失礼して、御飯にしませう。

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彼の友二人は、適当に椅子をずらす。
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彼女  こつちのナイフがよく切れるわ。いゝの、あんた二た切れたべていゝのよ。
小森  さういふとこを見てると、僕はつくづく、二人を幸福にしたい。そのために一生を捧げてもいゝやうな気がするんだ。
彼  熱情家ぶるのはよせ。
阿部  この二人を幸福にするといふことは、友達として甲斐のある仕事だ。
彼  人のいつたことを、すぐあとからいふな。
小森  こいつ、どうかしてるな、今日は……。
阿部  たしかに、どうかしてる。

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彼女は、肉を頬張つたまゝ、笑ひたいのをこらへてゐる。
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小森  こんな時、何を話しても無駄だ。帰らう。
阿部  また機嫌のいゝ時に出
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