。羊の毛皮を腰にまきつけたダヴィツドが、少々間の抜けた出方をすると、
「こゝはオデオンの舞台ぢやありませんぜ」
 私はひやつとしてダヴィツドの泣きたさうな顔を見た。
 此の恐ろしい剣幕が忽ち情味に富んだ調子にかはる。此の急劇な変化に少しも不自然な感じを与へないのは、その皮肉とも、おどけともつかぬ口のゆがめ方と、小鼻の動かし方であつた。
 びんの毛だけを残して、奇麗に禿げ上つた額、こけた頬から一なでに撫でつけたやうな天狗鼻、心持怒つた肩、長い腕、其の腕が、細過ぎる腰のあたりへぶらりと下つた形、其のポルトレを描いて「バツタの如し」と云つたのは彼の友人アンドレ・スュワレスである。

          ×      ×      ×

 嘗てゴルドン・クレイグが、ルウシェから、その美術座の舞台指揮を需められた時、之に答へて「よろしい、承知しました。但し、十年か十五年、劇場を閉鎖して下さい。俳優を根本的に訓練する必要がありますから…………」と云つた。ルウシェが一寸困つた顔をしてゐるのを見て、「さもなけれや、今あなた方がやつてゐるやうな事しきや出来ませんよ」と、附け加へたと云ふ話は有名である。

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